藤村龍至 プロトタイピング-模型とつぶやき (現代建築家コンセプト・シリーズVOL.19)
- 作者: 藤村龍至
- 出版社/メーカー: LIXIL出版
- 発売日: 2014/09/16
- メディア: ペーパーバック
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シバソン温泉合宿のときに id:r7kamura さんが 読んでた のをみて読みたいなと思っていたら、id:daaaaaai くんが贈ってくれた。(ありがとうございます!!!)
職業柄、プロトタイピングと聞くとソフトウェアのことを思い浮かべてしまうが、これは建築の話。
与えられた条件からシンプルな建築模型を作り、フィードバックを元に模型を改善していく。また、その過程を残すことで、変化を線形に並べて学びを得るという手法「超線形設計プロセス論」を、抱負な例を用いて紹介している。
ストーリーを意識する
まえがきで著者が自分たちに課しているルールが紹介される。
「ジャンプしない、枝分かれしない、後戻りしない」
何かを作るときについ複数のパタンを検討してしまいがちだが、一連の連続した過程から結果に到達する方が、実はより適切な解が得られやすいとされている。積み重ねることでリズムがうまれ、リズムがうまれると自然と飛躍できる。
線形に並べられた模型からストーリーを見出して適切な形に収束させる。 ストーリーという単語が使われているけれど、なんとなく歴史から学ぶということかなと思った。 どちらかというと発見的な手法のように見える。
ユーザ参加型
後半は施主や近隣住民を巻き込んで、投票を行うことで適切な方向に向かうようになってくる。 複数の案を出し、そこから好まれるものの特徴を継承してさらに複数の案を出し、これをくり返して設計を進める。最終的には好まれる案を全て包含したような形に収束していく。
読んだ時、あれ線形じゃなくなってるし、めっちゃ枝分かれさせてるじゃんとか思ったんだけれど、ここに到達するまでに通った方法があったからこそ、このやり方に到達している。一見ジャンプしてしまっているように見えるこの手法も、これまでの流れの延長線上にあった。
すべてに意図がある
これは本書では直接語られていることではないのだけれど、施工された建築はどこをとっても意図があるように感じる。また、実際に一部は解説されている。 これはプログラミングの世界でも同じだと考えていて、全ての行には意図が必要で「なぜこう書いたか」を説明出来ないといけない。
物がそうありたいと願うこと
あとがきの解説で「物がそうありたいと願うこと」と建築家の「物をこうあらしめたい」という2つの気持ちがあり、この均衡と緊張のあいだに、建築家の決定行為の多くがあると語られている。
ソフトウェアで考えると、「物」は「事」と置き換えられるような気がした。 抱えている問題を解決するということは、「事をこうあらしめたい」とすることであり、「事がそうありたいと願うこと」つまりほっておくとそうなる状態とうまく折り合いをつける作業になる。
どこで折り合いがつけられるかは、プロトタイピングで発見的にみつけていく作業によって、より最適な解を導ける。
シンプルにはじめる
ほとんどの例が四角い建物からはじまっている。 また与えられた条件の最大値からはじめているようにも見える。 そこから一旦複雑な形になり、リズムができ、自然な形に収束していく。
複雑な形からはじめてしまうと方向性が限定されてしまう。 とにかくシンプルに、だけれど条件を満たしきった形を考えて、そこからスタートすると自然と目指すべき方向が見えてくる。
雑感
写真がほとんどなのでさらっと読める。 プロセスの各段階に着目して学びを重ねるというやり方は、ソフトウェアでいう反復型に近いが、プロセス全体を通してのストーリー(線形に並べた模型)を意識するというのは新鮮だった。 また、「事をこうあらしめたい」というのは意識していたが、「事がそうありたいと願う」ことは意識したことがなかった。たしかに全てが思い通りに行くわけではなくて、お互いがすっと落ち着くところに収束しているように感じる。 なんとなくプロセスを経るのではなくて、プロセスそのものを意識してみようと思った。